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飛鳥京香「日本人の時代ージャップスデイズ」

飛鳥京香「日本人の時代ージャップスデイズ」

■ジャップス=デイズ■(始源)第1回

■ジャップス=デイズ■(始源)第1回
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
http://www.yamada-kikaku.com/

第1回
 ある一人の男の「妄想」から、そのプランは生まれた。
 男は世界の経済と政治状況における一国の役割を分析した。
彼は、その国が存在しないと仮定して、計算を行った。
 結果は、男の推論どおりであった。
 現時点で、世界が陥っているエネルギー問題や、
貿易の不均衡などの問題が、わずかながらでも、良い方向に向かう
と推論された。
 男は結果の研究レポートを、彼の研究所をバック
アップしているコングロマリットに提出していた。
 男の名前はオットー=ヒュルケナー博士。
 コングロマリットの名前は「ラドクリフ企業」グループ。
 そして、プランは「イエロープラン」と呼ばれた。
 イエロープラン発動後、地球上に宗教戦争がおこり、「VE紀元」と
なった。VEとはバニッニュ・アースを意味する。


■VE紀元103年 オメガステーション付近

 ギイにとっては、初めてのロケット飛行だ。
 ギイはコックピットにすわりこんで、目の前に並んでいるモニター
に見とれている。
 何んてきれいなんだろう。ギイが毎日見なれている風景とは何ん
と違っているんだろう。暗い空の中にきれいな光点が輝いていた。
ギイは片わらにいる養母に尋ねる。

 「ねえ、ママ、あの光点は何なの」
 「ああ、あれかい。あの光は星なんだよ」
 「星って何」
 養母のクラーレンスはこの種の会話にはまだ慣れて
はいない。
うるさいガキなんだ。なぜ私が子供を所有しなければいけないんだ。
彼女は管理局をうらむ。ギイは管理局が選び、彼女クラーレンスに
おしつけてきた子供なのだ。
 第二級アストロノーツ・クラーレンス・ハリディにとって、それ
は悪夢だった。が[優生保護法」にさからうわけにはいかない。もし、
この子供ギイをいじめたりしたら、管理局によって第二級アストロノーツの位は剥脱され、あのいじましい仕事、ステーション内のカーゴトラック運転手に戻されるに決まっている。

ああ、いやだ。クラーレンスは身ぶるいした。やれやれ、この子のごきげんでもとろうとするかい。
 「あ、あれはねえ、ステーションの大きな奴さ」
 「あの光点、すべてがそうなの」
 「ああ、そうさ。すべてが星なんだよ」
 オメガステーションーの女傑クラーレンスさまが子供の養成とは
ね。管理局もどうかしているんじゃないか。
 『おIい、クラーレンス、どうだい、子育ての方は』

 コックピットのモニターに、仲間のハロルドの声が入ってきた。
 ちえっ、ハロルドの奴、となりに船を持ってきたね。どうせ、今
日のリゲルの酒場は、私の子育て物語で、皆が笑うだろうさ。それ
も飛び切りの大笑い。
 『おだまり、ハロルド、ふざけると容赦しないよ。このクルーザー
には小型ミサイルだって積んでいるんだからね』
 『おやおや、おったまげた、母親だぜ、おいおい、子供がかわいそうだぜ、
クラーレンスー』、
 あきらかにあざけりの調子が、言葉のはしばしにあらわれている。
 『本当にむこうにいかないと、こわいよ。ハロルド』
 『おやおや、すごい怒りだ、クラーレンス。今日はリゲルの酒場の
皆からプレゼントを持ってきたんだけどなあ』
 『プレゼントだって、何だい、そりゃ』
 『つつしんでさしあげます。クラーレンス嬢。皆からのプレゼント、
ニックネームを決めたんだ。肝っ玉おっかあ、クラーレンスってな』

『ハロルド、お待ち、なぐってやる』
『それじゃなあ、クラーレンス』
『お待ちったら』
 ハロルドの高速艇は、それこそ、すっとんで逃げさった。
『ハロルド、今度、リゲルの酒場であったらえらい目にあわせるか
らね』
 クラーレンスは声をかぎりにマイクにむかってさけぶ。が、ハロル
ドの艇は、モニターから消えた。
 「ああ、私しゃ、とうとう、リゲルの酒場の笑い者か」
 ギイは、二人の会話をだまって不思議そうに聞いていた。それか
らクラーレンスに恐る恐る尋ねる。
 「ねえ、肝っ玉って何」
 「おだまり、ギイ。あんたは覚えなくていい言葉さ」
 ギイは養母の怒りに思わず首を縮める。クラーレンスは反省する。
しまった。もし彼女がいじめられたなんて報告されたら。

 クラーレンスは急に笑顔を作る。
 「さあ、ギイ、モニターを見ててごらんよ。気にいるものがあるかも
知れないよ」
 ギイはクラーレンスの表情の変化にとまどう。
 ギイとクラーレンスの乗った船はやがて、「問題の場所」を通過する。
 先にギイが気づく。
 「ねえ、ママ、あのステーションは何なの。他のステーションとこ
んなに離れていて。誰が住んでいるの」
 「ああ、あれかい、ろくでなしどもが住んでいやがるのさ」
 クラーレンスははきすてるように言った。
 「ろくでなしって」
 ギイはかぼそい首をかしげる。3歳のギイは金髪がかわいい。
 「いいかい、ギイ、覚えておいで。あのステーションに住んでいる
やつらは、人類じゃないんだよ」
 「宇宙人なの?」
 ギイは不思議な物を見たかの様に尋ねる。
 「それよりひどい奴らさ。日本人さ」
 クラーレンスは、その辺につばをはきだしそうな感じだった。
 「日本人って何なの、それ」
 「大昔、地球に人が住んでいた時、経済大国とか何とか言っていば
やくさっていた奴らさ」
 クラーレンスの顔は醜くくゆがんでいた。
 「なぜ、地球に住んでいたのに、地球人じゃなくなったの」
 「大昔に、地球連邦からはじきだされたのさ。全地球人の嫌われ者
がなったのさマねえヽママ、日本ってところ、地球の上に残っているの」
「ヘっ、そんなところ、もうありはしない」
「なくなっちゃったの」
「ああ、連邦軍が占領して、バラバラにしちゃったのさ」
「へえ、かわいそうな人達だね」
「かわいそう ギイ、その言葉を使う相手を間違っているよ」
 クラーレンスは思う。今、一番かわいそうなのは私さ。
 が、クラーレンスはかわいそうな人間ではなかった。
 この少女ギイ=クラーレンスはやがて、地球の救世主と呼ばれる
事になる。
 そして、養母クラーレンスも、地球の歴史に大きな足跡を残すの
だ。

(続く)
1988年作品 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
http://www.yamada-kikaku.com/


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